2017.01.23
南インドは、ケララ州という土地を訪問しています。
人の数より椰子の木の方が多い、という土地柄で、葉を揺らす風にゆっくりした時間が流れています。
ここは、州政府をあげてアーユルヴェーダを標榜していて、アーユルヴェーダ医師だけでも約八千名がおり、アーユルヴェーダ・ハーブの製薬会社も千社を数えます。 6月からの雨季がたっぷりの雨を降らせ、熱帯の気候が植物を繁茂させ、薬草が豊富に育つ土地柄であったことも、アーユルヴェーダ興隆の理由だったとか。
そんなアーユルヴェーダ王国を標榜する州ですが、町のあちこちにキューバ革命のチェ・ゲバラの肖像イラストが登場し、ここはキューバか、という錯覚さえ起こさせられます。 バス停でバスを待つ間にも、否応なくこのゲバラの顔が登場し、ハンマーと鎌を重ね合わせた、あのソ連でもお馴染みの赤いマークが登場します。
椰子の木が林立する南国ケララ州の風景と不釣り合いにも見える、このハンマーと鎌のマークの旗が、あちらこちらで風にはためいています。 そう言えば日本の県知事に当たるチーフ・ミニスターも今は、共産党の人です。
ここケララ州は、昔から共産党の影響の強い土地柄だそうです。 そのようなこともあって、グローバル企業の製造業がこの地に工場を作る動きはほとんどみられません。
ケララ州にいると否が応でも目に飛び込んでくる、この鎌と金槌のマークですが、鎌は言わずと知れた農漁業の象徴です。 第一次産業と呼ばれるのは、その付加価値が主に自然の力によってもたらされるものだからです。 そして、ハンマー、金槌の方は鉱工業、すなわち第二次産業の象徴でした。 こちらは、鉄鉱石や石油と言った自然によってもたらされた材料を使って、その付加価値は、主に人の力でもたらされる産業のことです。
一粒のお米のモミを春に植え、それが秋に実ると約1000粒のお米になります。 この千倍になることで付加価値としての『富』が産まれています。 そして、多くの人が養われています。
一台の自動車は、約3万個の部品が組み合わされて出来ています。 その3万個を、私たちが運転し思い通りに、走り、止まり、曲がる車に変化させる組み合わせは、唯一つしか存在しません。 3万個の一つ一つの部品には、その形を考え、機能を考え、素材を吟味し、それを設計図に展開した人の意志がこもっています。
それらを一つの車として機能するように唯一無二の組み合わせを考え、その通りに作った人がいます。 この過程で大きな『富』が産まれています。
戦後日本の高度成長期は、主にこの第二次産業が生み出した『富』で日本は豊かになり、その蓄積で、一般の人もたくさん海外旅行に出かけられるようになりました。
このことからも、私たちの生活を豊かにする基本は、『富』を作り出していくことであるとわかります。
しかし、長時間の稲刈りで曲がった腰を、マッサージしてくれる人も必要です。 自動車の製造組立ラインで部品の取付けに従事してお腹を空かした人に、昼食を作って提供する人もまた必要です。
『富』を生み出す人を、サポートする仕事です。 それらは第三次産業と呼ばれています。
なぜ、こんなことを言い出したかと言うと、法律でも禁止されている日本の公務員の天下り再就職が、組織的に行われていたニュースが大きな話題を呼んでいることを、チェ・ゲバラの肖像を毎日見せつけられている土地で聞いたからでした。
公務員の仕事は、直接的に『富』を生み出さないので、『富』を生み出す活動をサポートする第3次産業とも言えます。 しかし、民間の第3次産業との違いは、国庫に収入を生み出さない、と言う点です。
一般の第三次産業ですと、お弁当屋さんにしろ、美容師さんであれ、その利益に規定の税金がかかって国家や地方自治体に納入されます。 一方、公務員の業務からは直接的には、国庫も地方自治体も潤いません。 公務員も給与から所得税を払ってますよ!と言うのはその通りですが、その給与自体が税金から出ているので、結局税収は増えません。
公務員の業務は必要なことに異論はありませんが、ギリシャのように就業人口の25%が公務員という国が立ちいかなくなるのは、感覚的にも容易に想像できます。
今回はキャリア国家公務員の再就職が組織的に斡旋されていたことが取り沙汰されていますが、地方公務員の中でもそのような話は聞きます。 別に自分の能力で再就職することに何も問題はないわけですが、それが許認可などの影響力の威光の元で行われると、一般の納税者は疑問を感じるのでしょう。
安い給与で長年国家の為に働いてきたのだから、それを再就職で取り戻させてあげる親心、という説明を聞いたこともあります。 しかし、当番自身が関わったボーナスの支払いにも四苦八苦する、小企業から見ますと、公務員の給与水準は羨望の的でした。
しかし、公務員の業務が、国民が『富』を生み出すことを積極的にサポートする活動であれば、それは素晴らしいことであり、その負担を納税者も国民も納得することでしょう。
こちらケララの地では、稲作が盛んです。 2毛作は当たり前。 場所によっては3毛作もあると聞いたことがあります。 除草剤を使わないと、収穫までに3〜4回、雑草を手で抜く作業が必要です。 田んぼには一家総出で、腰を屈めながら、雑草を抜く姿がありました。
椰子の木が風にそよぐ姿を眺めながら、1粒の籾が、1000粒のお米に増えてくれる為には、そんな不断の労働があることを思い知りました。