2017.02.24
先月はインドのケララ州にて、アーユルヴェーダのクリニックを訪問しました。
今回は到着した翌日に、ケララ州でも既に5家族にまで減ってしまった、アーユルヴェーダ8分野に精通するといわれるアシュタ・ヴァイジャの一つであるヴァイジャラトナム家の75周年記念シンポジウムに参加することが出来ました。 ケララ州のトリチュールという町で開催されました。 こちらはまた、昨年2016年の10月に天空庵にてワークショップを開催していただいた、ラビ医師の叔父のクリニックでもあります。
2日間に渡ってアーユルヴェーダの専門家の講演会や討論会が行われ、古代の英知を現代科学の光で照らし出すお話が繰り広げられていました。
その中で面白かったのは、アーユルヴェーダの薬草が効いたり、効かなかったりするのはどういう理由か、というお話でした。
日本でアーユルヴェーダというと、アビヤンガに代表されるオイルマッサージだったり、額にオイルを垂らすシロダーラの施術のイメージがあるかと思います。
一方、インドでのアーユルヴェーダの位置付けは、西洋医学以外の治療を求めるインド国内では、やや少数派の人が使う医療というイメージがあります。 アーユルヴェーダ医の元を訪ね、薬草を処方されてそれを服用する、というのがアーユルヴェーダ治療であって、パンチャカルマと呼ばれるような施術を伴った治療は、かなり重症で経済的に余裕のある人が受けるもの、といったイメージでしょうか。 勿論、予防としてのパンチャカルマの施術を受ける人も欧米人を中心にたくさんいますが。
ですから、インドでは、アーユルヴェーダ=薬草、と言った感じがあり、古代の処方通りの薬をきっちりと確保し、患者に提供出来ることが、良いアーユルヴェーダ医になります。
当番が子供の頃に風邪で近所のお医者さんに行くと、粉薬をお医者さんが調合して、それを薬包紙で五角形に折って個装して渡されました。 それを大人は、そのまま頭を天井に向けて口にサーっと入れて水で流し込みます。 子供は苦いので、その粉薬をオブラートに包んでもらって、それを口に入れて水で流し込んだものです。
アーユルヴェーダの医師が処方する薬草は、本来医師が自ら作るものでした。
今回、シンポジウムを開催したヴァイジャ・ラトナム医院は、そのように自ら薬草を今も作り続けている医師家系の一つです。
しかし、実際はそれをやるのは大変なので、多くのアーユルヴェーダ医は、薬メーカーのものを購入して処方したり、患者さんに処方箋を渡して町の薬局で調達してもらったりします。
話が逸れましたが、今回のシンポジウムで興味をひいた、アーユルヴェーダの薬草の利き方の違いに関する考察です。
もともと生薬といわれる薬草類の薬効成分は、配糖体という水溶性の高い物質が多く、脂質で出来ている消化管の細胞膜で吸収されにくいそうです。 そこで登場するのが、ここ10年来の分析技術の進歩で、色々なことがわかってきた腸内細菌となります。
主に小腸に生息する腸内細菌によって、配糖体の糖が外れたり、本来の薬効成分に分解されて始めて、吸収され効力を発揮するのだろう、というわけです。
インド人の腸内細菌と、我々日本人の腸内細菌は違う可能性があるので、インドの大半の人に効力のある薬草も日本人には効きにくい、ということもあるのかも知れません。 カスピ海地方に住む人にとっては棲みつきやすいヨーグルトの乳酸菌も、味噌や醤油をとってきた日本人の腸内には、あまり定着しにくい可能性もあるかも知れません。
徳川八代将軍吉宗は、当時の中国の明との貿易を禁止しました。 それで困ったのが、中国から輸入していた薬草です。 そこで吉宗は、江戸の町に数カ所の薬草園を作って、薬草の自給に乗り出しました。 その薬草園の一つが、今の小石川植物園ですが、その近所で開業していたのが、あの赤ひげ先生でした。
薬草園からの手に入りやすい薬草があればこそ、赤ひげ先生も名医の誉れ高かったのかも知れません。 江戸時代の人々の腸内細菌は、薬草の薬効を吸収しやすくしてくれていたのでしょう。 八味地黄丸に似た漢方薬を毎日服用していたと言う徳川家康は、戦国時代の平均寿命が35歳〜40歳の時代に、74歳まで生きています。 今でしたら百寿者に相当するでしょう。
現代の我々が、あまり漢方薬が効かない、と言うことがあるとすれば、善玉腸内細菌が喜びそうにない添加物入り食品を、大量に摂取していることと関係があるかも知れません。
最近は、善玉菌、悪玉菌、日和見菌が、腸内には1000兆個もいるんだよ、と言う話をよく耳にするようになりました。 体の細胞が60兆個ですから、腸内細菌は数の上からは圧倒的に多数派です。
この腸内細菌の様子というのは、一般の我々でも調べてみてもらうことが出来る時代になりました。 当番はこれまでに2回ほど、自分の腸内細菌叢を調べてもらったことがあります。
どういう種類のビフィズス菌や乳酸菌がどのくらいの比率でいるとか、と言ったデータでみることができました。 甘いもの好きだった自分自身の食生活を、反省する機会にもなりました。 砂糖の入った食べ物を多くとっていれば、それを好む腸内細菌が増えやすいのは、自然の理のような気がします。
基本的に善玉菌が好むような繊維質の多い食生活でいる方が、アーユルヴェーダなどの薬草がより効きやすい腸内環境になっているのではないか、というのが今回のシンポジウムでのお話の趣旨でした。
私達が日々食べるものは、60兆の自分の細胞への栄養でもあり、1000兆もの腸内細菌への栄養でもあります。 良薬は口に苦しですが、アーユルヴェーダの本物の薬草は苦い系統のものがとても多いです。 苦いものを好む腸内細菌が多い人は、きっとアーユルヴェーダの薬の効きも良いのかも知れません。