2017.08.02
学生時代の夏、奄美大島の南に位置する古仁屋から、1時間ほどの久慈という小さな集落の公民館でゴザの上に寝泊まりして、1ヶ月ほど暮らしたことがありました。 学校のゼミで、村落調査のフィールドワークという授業の一環でした。
その集落の対岸には、奄美群島の一つ加計呂麻島があり、そこで昭和20年にあった海軍の特攻隊長と島の小学校の代用教員との恋愛について知ったのは、滞在中に読んだ島尾敏雄作品集の中の『死の棘』からでした。
その頃、当番は小川国夫という作家に夢中でした。 彼が作家として世に出るきっかけになったのは、この島尾敏雄と言う作家が、『アポロンの島』という小説を高く評価したことに端を発していました。 それで、これから奄美大島に行くのなら、特攻隊として奄美群島が舞台の私小説を読むのにいい機会だと思い、『死の棘』の本を持参したのでした。 何しろ、東京から電車を乗り継ぎ、鹿児島から船に揺られるという移動だけで4日間ほどかかる長旅だったので、小説を読む時間には事欠かない有様でした。
この『死の棘』という、おどろおどろしいタイトルの小説は、小栗康平監督、松坂慶子主演で1990年に映画化もされています。 夫の日記を読んで、浮気を知った妻が、精神的に病んでしまい、精神病棟に一緒に付き添って入院してしまう、という作家本人の実話に基づいた話です。
この映画の宣伝コピーには、こんな文章が踊っています。
”第二次大戦末期の1944年、二人は奄美大島・加計呂麻島で出会った。トシオは海軍震洋特別攻撃隊の隊長として駐屯し、島の娘ミホと恋におちた。死を予告されている青年と出撃の時には自決して共に死のうと決意していた娘との、それは神話のような恋だった。しかし、発動命令がおりたまま敗戦を迎え、死への出発は訪れなかったのだ。”
こんなことを思い出したのは、先日封切られた『海辺の生と死』というミホの本を原作にした映画を見たからでした。
この映画こそ、作家島尾敏雄とその妻ミホの太平洋戦争末期の鮮烈な、神話のような恋の顛末そのものを描いたものでした。
因みにこの映画の主演女優の満島ひかりさんは、普段から瞑想をされている方だとか。 最近出版された雑誌『an・anスペシャル号うわっと瞑想でハッピーを引き寄せる』の表紙を飾って、巻頭インタビューに登場しています。 この雑誌は、瞑想の紹介としてよくまとまって書かれています。
島で小学校教師のミホが恋に落ちた相手が、その島に赴任した海軍の特攻隊長であり、出撃命令が出れば真っ先に出陣し、2度と戻ってはこない運命。 運命の出撃命令が、遂に昭和20年8月13日に下されます。
彼の出撃命令を知ったミホは水垢離をして、白の死装束を身にまとい、自決用の短刀を胸に携え、星空の下、磯を伝って出撃を見送り、見届けようと岬の突端で、一夜をまんじりともせず過ごします。 そこでは、国家に捧げる死と、愛ゆえの死の二輪の花が、南国のガジュマルの樹に看取られながら、ひっそりと落ちなんとしていました。
しかし、遂に最終出撃命令はおりず、8月15日の終戦を迎えるのです。
こんなにもドラマチックな運命的な恋が、戦争という背景の中で、実話として存在したことに驚きます。
生きて結ばれることが許された二人。 美し過ぎます。