2018.09.20
小学校から中学校の授業に『国語』というのがありました。
漢字を覚えるのならわかりますが、小説やらエッセイが教科書に登場し、それを解釈する、ということが授業の科目にある意味が、子供ながらにわかりませんでした。
つまり、なんで『国語』がわざわざ勉強する科目になってるのか? 子供なりの素朴な疑問です。 日本語なんだから、文章の内容なんてわかるよ、と生意気にも思ってました。
高校生になるとそれが『現代文』と『古文』に別れました。 古文は確かに読み下すのに知識が必要になるので、その意義はわかるのですが、相変わらず現代文という名目でいわゆる『国語』が登場し続けるのが、わかりませんでした。
『日本語なんだから、何が書いてあるかくらいわかる!』という気持ちで、何を『国語』で勉強するのかがいぜんとして不明でした。
文化庁は平成7年から『国語に関する世論調査』というのを毎年実施しています。
確かに素晴らしいことですが、国家予算の約半分が借金で賄われている状況で実施する必要のある、緊急かつ重要な事業かは、議論されるところかも知れません。
一番直近の平成28年度の25ページある結果には細かな分析やら、折れ線グラフなどが色々登場しています。 その中に、こんな質問と回答がありました。
質問:言葉や言葉の使い方に関して、困っている、気になっているのは、どんなことか?
回答:”年の離れた人たちが使っている言葉の意味が分からない”に30.8%の人がそうと答え、平成22年度と比較して8.6ポイント増加した。
そうなんです、大人は難しい言葉を使うんです。
今月は世界中を不況の津波となって襲ったリーマンショック(2008/9/15)の10周年に当たります。
その金融危機の発端となったのが、サブプライムローンという米国発の住宅ローンを元に作りださえれたデリヴァティブ金融商品の破綻でした。
当時はサブプライムローンという言葉が、盛んに飛びかっていましたが、その意味をわかって語っていた人は、意外と少数派だったかも知れません。
そもそも米国の個人住宅ローンの審査においては、一般的にローンを申請してきた個人を3つのカテゴリーに分けていました。 平たく言えば、安心して貸していい人、十分な審査の上で貸すかどうかの判断をする人、絶対に貸してはいけない人、という3つのグループです。
この中で、最後の『絶対に貸してはいけない人』のカテゴリーを表す言葉が、サブ・プライム・カテゴリーというものでした。
ですから、サブプライムという言葉とローンという言葉が、一つにくっつくこと自体があり得ないことでした。
こういう前半と後半が矛盾しているあり得ない言葉のことを、オクシモロン(oxymoron)と言いますね。
因みに鎌倉の小町通りに、”オクシモロン”というその名を冠した人気カレー屋さんがあります。 あり得ない組合せのスパイスとハーブで意外な美味しさを生みだす料理を提供する意気込みを表しているのだとか。(と、メニューに書いてあった記憶が。店主さん間違ってたらごめんなさい)
話が逸れましたが、さように、サブプライムローンという言葉を聞いた瞬間に金融のプロの方は、すぐに『きな臭さ』を感じる言葉だったのです。
そのきな臭さを一般の我々が見抜くには、相当の国語力が必要でした。 『大人』の使う言葉は本当に難しい。
それを見抜けていた方は、金融の世界で言ういわゆる『リスクオフ』(リスク資産から安全資産へのシフト)で準備されており、そうでないと『リスクオン』のままに、大変な事態に巻き込まれてしまったかも知れません。
ここ3年半ほどの間によく聞く言葉に、日銀の『量的緩和』と言うのがあります。
これも超国語力を試される『大人の用語』です。
到底、小学生にもわかりませんし、大人の自分にも片側の耳から入って反対側にあっという間にスルーしてしまいそうな言葉です。
しかし、どうもこれもサブプライムローン以上に『きな臭い』言葉のようですが、正体不明です。
それに関しては、こちらの『刷れ、さもなくば去れ』で書いたことがあります。
こう言う国語の理解力が試されるケースは、日常生活に実に多いことがわかります。 改めて、国語の科目が小学校から高校まで授業に取り込まれている事の意味が分かりました。
例えば、ある歯科医院の案内に、『家族にするような治療を患者さんにもします!』
これも普通の文章に聞こえるので、サラッと流してしまいそうですが、国語の読解力が試されています。
家族にする治療=ベストな治療
患者さんにもします=通常は”危険な”治療が提供されているかも知れないけれど、当院ではベストな治療をします
こう言う国語の解釈が成り立つように見えてきます。
話を聞いてみると、日本で保険治療が認められているいわゆる”銀歯”は、先進国では使用が禁止されている国があるほどの、アレルギー物質(2人に1人がアレルギーを発症すると言う報告もあるパラジウム)が入っているのだとか。
つまり、うちでは銀歯は入れませんよ、と言っているのでした。 国語力、試されてます。
今年の夏は異常とも言える集中豪雨の被害や、猛烈な台風の被害が各地で多発しました。 発電用の風車が風で倒れる、というシャレにならない事態も発生しています。
地球温暖化の専門家などは、テレビ出演して『化石燃料の使用を控えたほうがいいかも知れませんね』などと発言しています。
これなども、国語力が試されている一例かも知れません。
当番は、20年ほど前にガソリンをあまり使わないハイブリッド自動車とか燃料電池自動車の開発に関連した事業への投資をいかに説得するか、と言う立場にいたことがあります。
その説得する資料を作るために、温暖化の深刻さを理解しようと思って、専門家の話を積極的に聞き回った時期がありました。
その頃に、専門家の方からは、こんな意見がありました。
『あの温室効果ガス削減の各国の目標を掲げた京都議定書(1997年)の内容でさえ甘過ぎる。 このままでいけば海水温が上がり、人類が対処出来ない地球環境を自分や子供の世代という近未来にもたらしてしまう。』
これを科学的なデータのシュミレーションなどを元に語っているのでした。
その同じ方が、テレビなどに今出演すると、先にあげたような、柔らかい表現に変わり、我々に切迫感は伝わりにくくなっており、またもや国語力が問われています。 多くの利害関係を抱えたマスメディアでは、相当に控えめな発言になってくるからです。
そう言えば国語の授業で習った用語に『婉曲法』というのがありました。 直接的な表現を避けて、遠回しに言うものです。
トイレとか便器とか直接的に言わずに、”洗面所”とか”お手洗い”と言うのもその身近な一例です。
英語では、婉曲法は『ユーファミズム』(euphemism)と呼ばれて、日常で実に多用されます。 米国人などは特に、一般用語だけでなく、個人が会話の中で自分なりの婉曲話法の表現を作り出すことが多く、直接言いにくいことをオブラートに包んでいます。
後期高齢者などと言う行政上の用語が、そのまま使われると当事者の方は早く退場しろ、と暗に言われているように捉える人もいるでしょうから、婉曲法を使って欲しかった場面ですね。
冒頭に登場したサブプライム・ローンという組合せとしてあり得ない(貸してはいけない人向け・ローン)言葉の:サブプライム”も、ちょっと下、を意味する”サブ”に、優良を意味する”プライム”という言葉で作られています。 実際は、絶対に貸してはいけない人たちを指す業界用語ですが、このようにユーファミズムで、砂糖をまぶした言葉で素人にはわからなくしてあります。
温暖化の専門家がテレビで、控えめな発言をしているケースなどに遭遇する度に、当番はまた『ユーファってる〜』と心の中で呟いています。
さて、その温暖化の深刻さと切迫感は、このような猛烈な風を伴った台風や、これまでにない集中豪雨を実際に体験すると、多少は感じられるようになってきたかも知れません。
一方で、温暖化の防止に向けたガソリン消費を極力少なくしたハイブリッド車や、ガソリンを全く使わない車を熱心に開発しているメーカーさんが、モータースポーツと称した車のスピードレースは続けています。
技術開発の為、と理由はあるのかも知れませんが、現状の温暖化の深刻さを考えれば、人や荷物を運ぶ目的もなく化石燃料を燃やすレースに参加することに躊躇はないのかな、と思えてしまいます。
かの有名な、京都で『お茶漬け(ぶぶづけ)でもどうどす?』と言われて、その気になってはいけません。 さっさと帰れ!の意味でしたね。 『ユーファっておますな〜』と、こちらも捉えてそそくさと退散します。
不都合な真実を、見えにくくする為にユーファった言葉や表現が飛び交っているようにも思える今日この頃。
子供の頃、国語の授業ほぼ毎日あった意味がようやくわかりました。 私たちに生きる知恵を身につけさせてくれる、生活に直結した勉強だったんですね。
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