2016.10.12
今回はインド・ケララ州からアシュタ・ヴァイジャのラヴィ医師に来日いただいて、2日間のワークショップを先週開催出来ました。
日本で手に入るハーブやスパイス、オイルなどを使って様々な症状への対処法、日々の生活の仕方、食生活との向き合い方、具体的な施術など、詰めきれない内容をコンパクトにカバーしていただきました。
フルに参加した方へのお土産に配っていただいたアーユルヴェーダ救急薬セットは、薬草の知識のエッセンスが詰まっていたものでした。
例えばその中の眠れない時に頭に数滴塗ると良い、とされる”シーラ・バラ101”というギー(無塩バターを約10分の1まで煮詰めたもの)をベースにしたお薬の作り方は驚きでした。
日本名マルバキンゴジカ(丸葉金午時花)のサンスクリット名”バラ”という植物の葉を1kg.釜に入れ、そこにギー4リットル、牛乳16リットル、”バラ”
を浸けておいた水16リットルを加えて煮ます。 牛乳と水が蒸発して全体が4リットルの液体になるまで煮詰めます。 そして、それが室温になるまで冷めるのを待ちます。 ここまでで2日間かかります。
そして冷めたら、そこにまた”バラ”の葉1kg.、牛乳16リットル、バラを浸した水16リットルを新たに加えて同じように4リットルになるまで、煮詰めます。 これを101回繰り返します!!! ですから、この”シーラ・バラ101”を作るのに最低でも202日間かかるわけです。
こんな風に植物の波動が転写された、とでも言うべき作り方がされているアーユルヴェーダの薬は、単に薬草を乾燥させて煎じて飲むのとは、違う次元があるように思えてきます。
今回のワークショップで強調されたのは、不調になったり病気になったりした時にその根本原因はどこにあるのか、と問うことが基本中の基本だ、という話があり、まずは食生活に根本原因がある場合が多い、というものでした。 ですから、まずは食事のアドバイスがあります。
しかし、それでは十分でない、と判断されると薬草が処方されるわけですが、その種類の豊富さにも驚かされますし、また先ほどのシーラ・バラの例でもありましたように、その製造の手間の度合いの大変さにも、驚愕します。
アシュタ・ヴァイジャの家系に生まれた子供は、小さい時からアーユルヴェーダ3大テキストの一つである『アシュタンガ・リダヤム』というテキストの7000以上の章句を暗記するそうです。 これは、18世紀にケララ州の地方を治めていたマハラージャから、18の地域の住民の健康を守る役目を担って18家族に下賜された秘伝書が、椰子の葉に書かれたこの『アシュタンガ・リダヤム』だったことから、当然とも言えます。
そしてただ暗記するだけでなく、その該当する症状に出会った時に、必要な章句がさっと口をついて出てくるレベルにまで、覚えこむのだそうです。
このテキストがどんな様子かと言いますと、例えば第4章の35句では、パンチャカルマという浄化の施術をどういう時期に受けると一番ベストか、という内容が次のように登場します。
『寒い時期に蓄積したドーシャは春に浄化すると良い。 夏に溜まったドーシャは、雨季に浄化すると良い。 雨季に溜まったドーシャは、秋に浄化すると良い。 ある季節に蓄積されたドーシャは、速やかに次の季節が始まる前に浄化するのが良い。 そうすることによって季節の変化に伴う疾患を逃れることが出来る』
その体内のデトックスと言われるパンチャカルマですが、一般的には3週間の長さが標準期間です。 どうしてもそこまで休みが取れない場合でも、15日間は最低必要だ、と言われています。 施術のクライマックスとも言うべきヴァスティと呼ばれる”浣腸”が、施術の最後の6日〜7日間に行われることが多いです。
日本で仕事をしていると3週間の休みは、普通取れないことが多いのが実情です。 一方、このデトックスは通常3回の浄化の浣腸でフィニッシュするのですが、その為には2週間以上の準備がいるのだそうです。 最短期間と言われる15日間の施術ですと、その浄化の浣腸がギリギリ1回だけ可能、というタイミングになります。 これゆえ、15日間以下の施術では、浄化の浣腸が出来ないので、せっかくのパンチャカルマがその効果を発揮出来ないで終わってしまうことになります。
アーユルヴェーダの伝統では、医師が患者の元を訪ねることになっているので、毎日滞在している部屋に医師の巡回があります。 そして、滞在期間中は個別に処方された様々な薬草を1日に5〜6回とりますが、所定の時間になるとテクニシャンの方が部屋に来て、薬をお湯で溶いたり、複数の薬を混ぜたりして飲ませてくれます。 施術は1日に2回あることもあります。
ですから、5〜6回薬を飲んで、往診を受けて、2回の施術を受け、3食を食べて、と一日が身体と真摯に向き合いながら、スムーズに流れていきます。
インドでこのパンチャカルマを受けられた方は、有名な額に液体を垂らすシロダーラという施術がオイルで行われることが少ないことに気づきます。 一般に最も多いのが『バターミルク』をベースにしたシロダーラです。 地元では『タッカラ・ダーラ』と呼ばれています。(シロダーラという言葉は、オイルを垂らすという意味はなく、様々な液体を額に垂らす施術を全て含めて言い表します)
このタッカラ・ダーラですが、脂肪分のないヨーグルトとでも言うバターミルクがベースではありますが、薬草も色々入っています。 その垂らす液体を作るのになんと、24時間ほどかかります。 24時間付きっきりでいる必要はないですが、それなりに手間はかかります。
ですからこの施術代が1000円だとすると、この垂らす液体を作る費用の方で500円くらいかかってきます。 これはまとめて作れないので、その日にタッカラ・ダーラの施術がある人数分ごとに用意するのですから、大変です。
かようにアーユルヴェーダは、古代のテキストの記述に忠実にやろうとするととても大変ですが、それを愚直にやっていくことが伝統を守り、人々の健康を守ることなのだとして、残り5家族にまで減ってしまったアシュタ・ヴァイジャの家系の医師たちは日夜奮闘されています。